ヤギ:・・・ここはどこなんだろう・・・霧が深くて何も見えない・・・
僕は何をしてたんだっけ?
うっ首が痛いような・・・
頭がぼーっとしてよく思い出せないや・・
とっても疲れた・・・もう少しここで眠っていたい
ガヤガヤ
ウサギ:・・・はこちらで~す
ご乗船の方は、お急ぎください。チケットをご準備の上、順番に係の者にお見せください
ヤギ:何だよ。やけに騒がしいな。
さっきまで、あんなに静かだったのに。
あ~~、もう少し寝かせて欲しいのに・・・
ウサギ:・・・ハイハイ、こちらですよ
皆様、足元にお気をつけて。
チケットをお見せの上、順番にお進み下さい。
本日の便はこれが最終でございます。お乗り遅れのなきよう、お急ぎくださ~~い
おやおや、あなた。
こんな所に寝ていちゃ船に乗り遅れちゃいますよ。もう、さっさと立って。急いで急いで。
乗客を置き忘れたりしたら、叱られるのは私なんですからね。
グズグズしないでくださいよ。
早く早く。走りますよ。
ヤギ:えっえっ、何、何、どうして
ウサギ:あなた、お若いんだから、もっと速く走れるでしょう。なに
ヤギ:僕、ここにいちゃダメなの。
ウサギ:何言ってんですか。そんな事、許される訳ないじゃないですか。早く、早く。
ヤギ:ハア、ハア
ウサギ:ハア、ハア
ヤギ:ついて来ちゃったけど、ハアハア 何だよ、もう。ハアハア
ウサギ:もうっ‼︎ 皆さんお待ちなんですから。とにかく、チケット出してください。
ヤギ:チケット??
ウサギ:こんなのですよ。
縁が黒くて、赤文字で今日の日付けが書いてるカード
ヤギ:え~~っと。ちょっと待ってね。
う~~ん、思い出すからね。
う~~ん、それもらったね。
ウサギ:そうでしょう。だから、あなた、あそこにいたんでしょう。ハイハイ、思い出したならチケット出してくださいな。
ヤギ:あのね、それないの。
ウサギ:落としたんですか?
私が急かして走らせたから!?
わ~~あ、どうしよう。
あっ、あなたはここで待ってて下さい。
私、探してまいります。
あ~~~どうしよう、又怒られますよ、私。
ヤギ:あの~~
ウサギ:大丈夫。
私、必ず見つけて戻ってまいりますよ。
絶対、あなたをこの船に乗せてみせます。
私のこの足でひとっ飛びです。
ちゃんと見つけますから。
ヤギ:すみません。あの、僕、それ食べちゃったと思うんです。
ウサギ:はぁ~~、食べちゃったって、あなた。
どういう事ですか??
ヤギ:さっき、一度目が覚めた時、僕すごく疲れて
お腹もすいてて、
その時、手に紙が握られてて何かつい食べてしまったようで・・・
ウサギ:ギャーー
どうしよ。どうしよ、そんな事って・・・・
だから、ヤギは嫌いなんだよな~~、もう!!あなた!! それがどういう意味か判ってるんですか・
あ~~、知らない。もう、知らない。
それは私のはんちゅうでは、ございません。
チケット無しでは、何人たりとも
ご乗船いただくわけには参りません。
ああ・・・もったいない・・・
ヤギ:あのさー さっきから聞いてると僕が一人でせかされて、責められて何がなんだか解らないんだけど・・・
ウサギ:あなた、ご自分の状況が理解できないと?
結構です。
他の皆様を随分お待たせしております。
あなたのお陰で、十五分も出港時刻をオーバーしております。チケットないなら、とっとと、どこへでもお出でください。ハイ、さようなら
ヤギ:えっと、すみません。怒られちゃったみたいで。でも僕、よくわからないんです。どうしてチケット握ってたのか?ここが何処かって事さえ。頭がぼお~っとして何も覚えてないんです。
ウサギ:そうですか。
そのような方も時々いらっしゃいますよ。
でも、船に乗ってFM Box 見たら全て思い出されるのですが・・・あなたはチケットを食べてしまわれたのだからそれも無理ですねぇ。
ヤギ:思い出せるんですか!そのチケットどこで売ってるんですか?僕、買ってきます。
ウサギ:無理ですね。
チケットの再発行なんて一人一枚って決まりですからね。お気の毒です。はぁ~~~食べますかね、しかし
ヤギ:食べたんです。わざとじゃないんだけど・・・
ウサギ:しかも何もご自分の事覚えてない・・・
そうだなぁーーー
じゃあ、向こうに見えるゴシック建築の建物の7階に行って、ミス ガーネット様にご相談なされては。
ヤギ:ミス ガーネットさん?
ウサギ:気をつけてくださいよ。
とても厳しい方ですよ。すぐ怒るし、美人だけどね。
ヤギ:ここかぁ~~
あの~
ミス:何でしょう。
あらっ、あなたは?
ヤギ:うさぎさんに教えてもらって
僕、実は何も覚えてないんですが・・
持ってたチケット食べてしまって。
船に乗れば記憶が戻るって話を聞いて、ここに来たんです。
ミス ガーネットさんに会うように言われたんです。
チケット再発行して頂けないでしょうか。
ミス:ちょっとーーぉ
何言い出すかと思ったら、チケット食べたって?
初めて聞いたわ。
そんなのありえないわ。
ヤギ:本当なんです。
お腹空いてて・・・知らないうちに口にいれてしまって
ミス:どうすんの?
どうするのかって聞いてんの。
チケット再発行なんて出来るわけないでしょ。
一回きり!
ヤギ:一回だけ?
ミス:当たり前よ。一回で十分よ
二回もチケットもらってどうすんのよ!
ヤギ:落ち着いてください。僕だって訳わからないんだから
木の下で寝てたら急にウサギに起こされて
急げ急げって走らされ、チケット見せろ、船に乗れって何がなんだか意味がわからない
ミス:困ったわ。本当に困ったわって、私が困っても仕方ないんだけどな~~
あなたチケット誰から渡された?
ヤギ:目が覚めたら手に持ってて・・・
ミス:う~~~又うちの配達員。説明せずに置いてきたのね。業務違反ね。十点減点。
これで冬のボーナス無しねって、そんな事言ってる場合じゃないわ
どうしたもんだろ
あっ、所長。大変な事に・・・
ゴニョゴニョ・・・
ミス:そうですね、本人、以前の事全く覚えてないんですもの。
このままにしたら
ミス:わかりました。
こちらの手違いもあったようです。
あなたがチケットを食べてしまったのもこちらのミスと言えない事もありません。
しかし、こういった場合二十年は再発行できない決まりとなっています。
その間、あなたはどちらにもいくことは出来ない。特例として、こちらでチケット再発行まで働く事を許可します。そうすれば、こちらでの居住も可能となります。
ヤギ:えっーーー全然わからない。
僕、家に帰れないんですか?
ミス:あなた、家はどこ?
ヤギ:覚えてません。
ミス:では?
ヤギ:ここで働きます。
ミス:よろしい。では今日からわたしの部下として仕事をしていただきます。
ヤギ:ハイ・・・で、僕は何を
ミス:ふぅっ (息を吐く)
こちらにかけて。
あらっ、もうこんな時間。お茶にしましょう。ミルクティーだけど、どうぞ。
ヤギ:ありがとうございます。で、僕はこれから
ミス:まず仕事の話の前に。
やっぱり仕事の話。
ここはチケットを発行する所
一生に一度、全ての生き物はこちらが発行するチケットを受け取ることになる。
このチケットには番号と日時のみがしるされてる。
受け取った者は必ずその日のうちに乗船しなきゃいけないのよ。
ヤギ:そこがよくわからなかったんです。
どうして僕にチケットが渡されたのか。
あの船でどこに行くのか?
そもそも何で船に乗らなきゃいけないのか?
ミス:それはね。
ここが死界の窓口だからよ。
ヤギ:えっ、しかい?
ミス:つまり、あなたは亡くなったのよ。
今日あの船に乗って死者の世界に旅立つはずが、
うちの社員がきちんと説明せずに眠ってたあなたの手に
チケットを握らせて、配達終了って事をやってたわけね。
手抜きもいいとこ。きっちり責任は取らせるけどね。
ヤギ:ぼく、死んでしまったの・・・
ミス:お気の毒だけど
ヤギ:チケットのない僕は天国にも行けないと。
ミス:あら、以外と図々しいのね。
死者が皆、天国に行けると思ってるの。
ヤギ:あっ、じゃあ僕は地獄行きの船に乗るはずだったんですか?
ミス:それは答えられないわ
ヤギ:じゃあ、チケット食べた方が良かったのかもしれないって事でしょうか。
ミス:食べる人はいないわ。チケットには行き先までは書いてないもの。
ヤギ:死んだら僕みたいにみんな記憶がなくなるんですか?
ミス:それは最期の瞬間の迎え方によるわ。
ちゃんと準備してチケットを受け取る者もいれば、あなたみたいに気を失ってチケットを手にしてる者もいる。
ヤギ:寝てたわけじゃなくて、気を失っていたんですか。
ミス:たとえばの話。
とにかくそういう事。
で、ここでの仕事っていうのはね、死にいく者に乗船チケットを発行して、配達員に届けさせる手配をする。
ヤギ:天国行きとか地獄行きって誰がきめるんですか。
ミス:もちろん私たちよ。
ヤギ:どうやって
ミス:そこで登場するのがファンタマゴリアボックス。通称、FM Box
ヤギ:あっウサギが言ってた?‼︎
ミス:そうよ。その者が善人か悪人か。
その者の一生分の記憶や行動が見られるマシーン。
向こうじゃ走馬灯とか呼ばれてるわね。
それを見て私たちがこいつは天国行き、地獄行きって判断してチケットを出すのよ。
ヤギ:あなたはえんま様?
ミス:何よそれ。
一人であんな大量の数さばけないでしょ。
ここでは数百名の職員が働いているわ。
ヤギ:じゃあ、係りの人次第で運命が決まるじゃないですか。
ミス:私たちは決して間違えない。
ヤギ:そうなんですか。
ミス:わかったなら仕事、仕事。
ヤギ:あ~はい。
そのテレビみたいな青い箱、それがFM Boxなんですね
ミス:そうよ
とにかく慢性的に人手が足りないのは確かなわけだし。人間の分は絶対許されないけど。ヤギは感情的になりそうだし・・・
ヤギ:僕が行き先きめるんですか
ミス:ネコ係
ヤギ:えっ、ハイがんばります。
ミス:頑張らなくてもいいわ。ネコはみんな天国行きって決まってるから。
ヤギ:え~~~どうして。
ミス:可愛いから
ヤギ:それって
ミス:ネコは生きてるだけで人を幸せにするから。そうきまってるの。
チケット発行は職員しか出来ない決まりよ。でもネコなら全て天国行き。
チケットに日付記入でOKだから あなたでも出来るわ。
一年の月日がたった頃
ヤギ:(泣いている)
ミス:どうしたの
ヤギ:あの~~ずっと考えてたんです。
僕はどうして死んだのかって
ミス:FM Box見たのね。あなた覚えてたの、自分のチケットの番号
ヤギ:はい。ずっと気になってたけど、FM Box見る勇気がなくて
ミス:そう
ヤギ:僕らは悪魔に作られた生き物なんだね。だから神様から愛されないんだ。
(しくしく泣く)
ミス:親は選べないものよ
ヤギ:悪魔からも嫌われて・・・
ミス:万人に好かれる者なんて一人もいないわよ
ヤギ:だったら生まれてこなければよかったのかも
ミス:生まれる必要のない生き物なんてそもそも創造されてないわよ。
全ての生き物には役割があるのよ。
ただ悪魔は間違いをおかしたのよ。
自分が創った大切なしもべが自分に迷惑ばかりかける生き物だって思ってしまったのよ
ヤギ:神様は僕たちヤギを・・・
ミス:ちょっと懲らしめようと思っただけよ。
何でも食べてしまうから
ヤギ:じゃあ僕は何の為に存在してるんですか?
ミス:あなた本当に解ってないの?
ヤギ:何をです!! (大声)
ミス:昨日、配達されるはずのチケットが一枚足りなかった
ヤギ:えっ
ミス:所長はカンカン
おかげで私たちは徹夜でそこらじゅう探しまわったわ
ヤギ:それは
ミス:あなたが担当の黒猫のチケットだったわ
甘ちゃんだからね~~ヤギは
でもネコは皆んな天国に行くのよ
どうしてチケット発行しなかったのかしら
ヤギ:あのこは気の毒なおばあさんの唯一の家族なんです。
おばあさんはご主人と娘さんを同時に失くされ
生きる気力もなくされ病氣になって
でも一匹のあの黒猫がボロボロの姿で迷い込んできて
おばあさんはその時以来ずっと黒猫を
本当の子どものように育てて、
肩をよせあって生きてきたんです。
それなのに又あのこが死んじゃったら
おばあさんはもう生きていけなくなります。
ミス:それで発行しなかったわけ
ヤギ:発行はしました。でも食べてしまいました。
ミス:ほぉ~~~頭使ったわね。
一度発行されたチケットは二十年は再発行出来ないものね。配達もされなかったわけだし。
ヤギ:ごめんなさい。でも僕、おばあさんにもう泣いて欲しくなかったんです。
ミス:あなたの役割はそういうことよ
ヤギ:役割!?
ミス:私たちは神。決して間違うことはない。
でもあなたはヤギ
ミスをおかす事もある。
手紙を食べてしまう事さえあるのよね。
あなたは優秀なチケット発行人だわ。
だから私、あなたに天国行きチケットを発行したのよ。