神様のけものと悪魔のけもの【脚本】

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(電話のベル)

おかみさん:
あ、ルーシー?昨日はありがと。頂いた鹿肉、カルパッチョにしたわよ。
ぜんぜん。簡単、簡単。ニンニク、ショウガにお醤油、胡麻油に
つけるのよ。あとはお肉と卵黄で混ぜて白髪ネギのせるだけ。
ああ、残りはボルシチにするわ。

大丈夫よ、うちは二人だもん。ていうかさあ〜、今夜もだんなは
お出かけだから、一人分作ればいいの。

ふん、忙しそうって。そうよ。
店の事はそっちのけでギター抱えて出てったわ。
全く! ちょっと女の子に頼まれたら、ほいほいよ。
今日も私一人でパンづくり。

そうそう、まあ、お互い苦労するわね〜

えっ、ベロニカがいなくなったって!
どうしたのかしら、心配ね〜

ところでさぁ、ベロニカって?
ああ、ペットなんだ、昨晩から〜
そう、見かけたらすぐに知らせるわね。

(ひゃっ)
嫌だ、大変、うちの庭にオオカミがいる!
ごめん、電話きるね。

何て事、こんな時に限って旦那はいないし・・・
あの男、役に立たないんだから。

(ライフル抱えて表に出る)

バーン!

お前、うちの庭で何してるの! 今度は頭よ!

ヤギ:すみません、すみません、おかみさん。
僕、ヤギなんです。オオカミじゃありません。僕、ヤギなんですー。

おかみさん:ヤギって。あんた、なんでオオカミの皮なんて。

ヤギ:ごめんなさい、ごめんなさい。
僕、追われてるんです。
悪魔が僕の目玉くりぬくって。
だから僕、ここで隠れてたんです。

おかみさん:どういうこと。
悪魔、あんたの事とっても可愛がってたじゃないの。

ヤギ:そうです。僕を創ってくれたのは悪魔だから。

おかみさん:そうでしょう。
私、前に見たわよ。あんたの白いふさふさのしっぽ、綺麗だけどさぁ〜

牧場のイバラにひっかかるたびに、悪魔が外してくれてたじゃないの。面倒見いいんだって思ってたのに。

ヤギ:最初のうちは、そうだったの。
でも、毎回引っ掛けてしまうから、悪魔とうとう怒って、しっぽを噛み切ってしまったんですよ。付け根だけになってしまって、まだヒリヒリしてる。

おかみさん:あらら〜だからって、目玉まで取るってのは。

ヤギ:それは別の話で。
イバラにひっかからなくなったら、悪魔は、僕たちだけで牧場にやったの。僕らは草だけじゃつまらないから、実のなる木とか、上等のブドウの木をかじったの。
そしたらね、神様が草木が可哀想だって、オオカミを僕らにけしかけたの。
仲間は皆オオカミに引き裂かれてしまったんだ。悪魔はそれを知って、神様に言ったんです。
「あなたの創ったケモノが、私のケモノを引き裂きました」って。

おかみさん:まあ、で、神様は?

ヤギ:お前はどうして害をなすようなモノを創ったのかと。

おかみさん:そりゃ、悪魔が創ればそうなるわね。子は親の鏡だもん。

ヤギ:はあ、そう言われれば、そうなんですけど・・・

おかみさん:それで?

ヤギ:弁償してくださいって。
そしたら神様は「カシの木の葉が落ちたらすぐ払ってやる」って。悪魔はね、カシの木の葉が落ちたらすぐに神様の所に行って金を払って欲しいと言ったんですよ。

おかみさん:あの男、まだ払ってないの?

ヤギ:そうなんです。
神様、「コンスタンチノープルの教会には高いカシの木が立っていて、まだ葉は一枚も落ちてないぞ」って。
悪魔はかんしゃく起こしたけど、六カ月荒れのを彷徨いそのカシの木をやっと探し出したんです。で、帰ってきたら他のカシの木はみんな葉をつけてて、だからね。悪魔は弁償金を諦めるほかなくて。

おかみさん:まったく!神って。男ってそうよね。なんて卑怯なの。信じられない。口先ばっかり、間に受けた方が馬鹿をみるのよ。
うちの旦那もそうなのよ。

ヤギ:え、え〜

おかみさん:いつも大きい事言って。
この前だってね、肉屋の主人たちと自分だけスペイン旅行行ってさ。

旅先からのメールが「今度は君と行きたい」って。なんて優しいのって思ったけど、あれから二年。まだ私近所の温泉さえ行ってないわ。

ヤギ:あの〜おかみさん・・・

おかみさん:ああ、こんな事なら母さんの言う通り、隣町の医者の嫁になるべきだったのかしら。
でも、あの時まだわたし十七よ。あった事もないオヤジと結婚なんて。今よりは楽な暮らしだったろうけどね。
でもね、ダリとゴッホの違いもわからないような男じゃね。

私も若かったからさ誕生日に「君の為に描いたんだ」なんて絵もってこられたら、ついね。あ〜〜あ。

ヤギ:おかみさ〜〜ん

おかみさん:ああ、ごめんね。
そうそう、話の続きね。それで悪魔はあんたにやつあたりなのね。でも、どうしてオオカミの皮?

ヤギ:だって、悪魔は神様の可愛がってるオオカミには手がだせないから。

おかみさん:そうなんだ。可哀想なヤギさん。わかったわ。そこに隠れてなさいな。

 

(電話のベル)

 

おかみさん:あら、電話。

 

(バタバタ)

 

おかみさん:ああ、ルーシー、ベロニカ帰ってきたの?
そう、まだなの。
それよりね、今うちの庭にヤギがいるのよ、オオカミの
皮かぶって。

え、見つかったの。ベロニカってヤギの名だったの、
なんだ〜よかったわね。
ええっと、あの〜ちょっと聞いてもいい?
ルーシーあなたのご主人の本名って?

「ルシファー」って・・・

私ったら、何て事、かわいそうなやぎ。
そうね、仕方ないわね。

えっ、お礼。ヤギ革のバック!ほんとにぃ〜
(うふっ)ありがと。

 

げに恐ろしきは女のおしゃべりなり。